サイエンス

PFCcV81F

最新科学や興味深い科学を語るお固いスレ
  • [202] SS教授 2017/10/08 16:14

    zfHcDBzl
    銅像の腕、石棺の蓋、大理石像の破片、謎の青銅製の円盤──これらは、世界で最も古いとも言われる有名な沈没船から見つかった遺物の数々だ。



     10月4日、ギリシャ文化省の水中遺物部門が、9月4日から20日にかけて行われた発掘調査の成果を発表した。調査対象となったのは、ギリシャのアンティキティラ島沖、水深約55メートルの場所にある「アンティキティラの沈没船」。見つかった遺物からは、全盛期のローマ文化の様子をうかがうことができる。

     調査隊の共同代表を務めたアゲリキ・シモッシ氏は、「(この沈没船から)大理石像や銅像など、とても貴重な財宝が見つかっています」と話す。

     シモッシ氏によると、この商船は紀元前1世紀ごろにローマに向かう途中で沈没したものと見られており、全長約40メートルと当時にしては大きい。この頃のローマでは、裕福な市民たちが邸宅をギリシャ芸術で飾っていたので、出港したときにはたくさんの芸術品を積んでいたと考えられる。
     調査の様子を撮影した動画には、写実的な彫像の腕の部分を回収する様子が記録されている。形や指の向きから、哲学者をモデルにしたものかもしれないという。

     これらの彫像は当時の高級芸術だったと考えられる。一方、今回見つかったなかで、おそらく最も好奇心をそそられるのは、小さな青銅製の円盤だろう。この円盤には、いくつかの穴が開けられており、雄牛の模様が刻まれている。シモッシ氏は、いったい何に使われていたものなのかわからないと言う。

    「まだ何とも言えませんが、家具用の飾りか印章、あるいは何らかの道具かもしれません」

     これを聞いて思い出すのは、あの「アンティキティラの機械」だ。100年以上前にこの沈没船から見つかった青銅製の歯車式機械で、驚くべき精度で天体の運行を計算できたと考えられている。その正確さから、しばしば「古代のコンピューター」とも呼ばれる。

     今回、考古学者のチームを率いたのは、シモッシ氏とスウェーデンのルンド大学の考古学者ブレンダン・フォーリー氏だ。しばらくは今年回収した遺物の研究を続け、2018年5月にはふたたび沈没船の調査を行う予定となっている。
    「アンティキティラの沈没船」の歴史

     シモッシ氏は、今年回収できた遺物は過去最多レベルで、尽きることのない太古からの贈りものだと話している。この沈没船が最初に発見されたのは1900年。海に潜って海綿を集めていた人物が、彫像の腕を見つけたのがきっかけだった。

     これは「主のない腕」と呼ばれ、さらなる財宝発見への期待が高まった。1976年には、有名なフランス人海洋探検家ジャック・クストー氏が調査を行い、彫像やいくつかの小さな遺物を発見した。

     この沈没船は100年前からよく知られてはいるものの、1970年代にクストー氏が訪れてからは、断続的な調査しか行われなかった。しかし、2014年にフォーリー氏がこの海域に注目したことで、考古学者たちの間で興味が再燃することになった。なかでも最も重大な発見となったのは、人骨の一部が見つかったことだろう。2000年前の貴重なDNAを調査できるほか、そこから沈没船の歴史についてさらなる手がかりが得られるかもしれない。DNAの分析はまだ続いているが、初期の調査からは、若い男性の骨ではないかと考えられている。

     フォーリー氏は2016年の「ネイチャー」誌で、この船が嵐などの自然現象が原因で、突然沈没したのではないかと論じている。

     シモッシ氏によると、この沈没船の積荷は、現在見つかっている地中海の沈没船の積荷の大部分を占めるという。残骸を調査する作業には多大な時間がかかるものの、さらなる発見が期待される。
    イイネ! 返信
  • [201] SS教授 2017/10/07 10:45

    zfHcDBzl
    米航空宇宙局(NASA)の研究チームは5日(日本時間6日)、約35億年前の月が大気に覆われていた、とする分析を発表した。火山活動で大量の水蒸気などが噴き出し、約7千万年にわたり表面を覆ったとみられる。その後ガスの発生が収まり、現在のような表面になったという。

     専門誌に論文が掲載された。研究チームは、マグマが固まってできた月面の黒っぽい「海」と呼ばれる領域について、アポロ計画で採取した試料データや、月探査機「ルナ・リコネサンス・オービター」の最新の観測結果などから、噴出したガスの組成や量などを推計。火山活動が最も盛んだった約35億年前には、一酸化炭素や水蒸気などからなる大気が、最大100キロの厚さで表面を覆っていたと結論づけた。大気は現在の地球の約100分の1だが、現在の火星より濃かったという。

     月面の火山活動で噴出した水蒸気の総量は、琵琶湖の10倍近くに達した可能性がある。多くは宇宙空間に失われたが、一部は太陽光が届かない極地などに残っているとみられ、将来の有人探査で資源として活用が期待されている。

     月は約45億年前、誕生直後の地球に別の天体が衝突してできたとする説が有力とされている。
    イイネ! 返信
  • [200] SS教授 2017/01/18 01:16

    PFCcV81F
     2015年に発見された新種の魚「ルビーシードラゴン」。その生きて泳ぐ姿がオーストラリアにて、世界で初めて観測されました。研究に寄与している西オーストラリア州立博物館のFaceBookで、動画が公開されています。


     ルビーシードラゴンは、トゲウオ目ヨウジウオ科に属する、タツノオトシゴに似た魚。古くは1919年に採集されたものをはじめとする4体が、標本として存在していました。これが近年のDNA鑑定などを用いた調査から新種と判明。過去の採集場所から、オーストラリア近海の深い領域にせい息していると推測されていました。

     研究チームは生きた状態の個体を探すべく、幾度もダイビングを敢行。50メートル強の深度で発見し、撮影に成功しました。このことはルビーシードラゴンが西オーストラリアに分布していることを示すとし、保護の準備を進めています。

     なお、これまで確認されていたシードラゴンの仲間は、ウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンの2種類のみ。ルビーシードラゴンは約150年ぶりに確認された3種類目となります。
    イイネ! 返信
  • [199] SS教授 2017/01/15 16:38

    PFCcV81F
    絶滅危うい新種「スカイウォーカー・フーロックテナガザル」

     アジアで新種のテナガザルが見つかり、1月10日、学術誌『米国霊長類学ジャーナル』に発表された。ミャンマー東部から中国南西部にかけての森林に生息するフーロックテナガザルの仲間で、「スカイウォーカー・フーロックテナガザル(学名はHoolock tianxing)」と名付けられた。「スカイウォーカー」という名が付いたのは、発見した科学者たちが『スター・ウォーズ』ファンだったためと、BBCニュースは伝えている。ちなみに、学名の「tianxing」を漢字で書くと「天行」になる。

     映画でルーク・スカイウォーカーを演じた俳優マーク・ハミルもこのニュースを知り、「光栄だ。ルークはこれまでお菓子や下着、切手になってきたけど、今度はこれ!」とツイートしている。

     米ウィスコンシン国立霊長類研究センターの情報によると、フーロックテナガザルは体長約80cmで、尾はなく、平均体重はメスが6kg、オスが7kg程度という。今回発見されたスカイウォーカー・フーロックテナガザル(以下、スカイウォーカー)は、目の上の毛や股間の毛、頬のまわりの毛の色や形が他のフーロックテナガザルとは異なっている。

     だから、あなたが股間に白や銀色の毛が生えたテナガザルを目撃しても、それはスカイウォーカーではない。オスのスカイウォーカーの毛は茶色か黒だ。

     今回新種となったテナガザルは、これまで存在自体は知られていたが、近縁のヒガシフーロックテナガザル(H. leuconedys)だと思われていた。ヒガシフーロックテナガザルはIUCNレッドリストで危急種に指定されているが、スカイウォーカーが新種記載されたため、保全状況を改めて評価する必要があるという。「スカイウォーカーについてはほとんど何もわかっていません。しっかりした情報なしに保全状況を評価することは困難ですが、おそらくIUCNレッドリストの絶滅危惧種になると思います」と言う。

     科学者たちがこのサルに映画の人気キャラクターの名前を付けたのは、人々の目をひいて保護活動に役立てたいと考えたからもしれない。フォースと共にあらんことを。
    イイネ! 返信
  • [198] SS教授 2017/01/14 01:45

    PFCcV81F
    このスレ196の詳細


    鹿児島県屋久島でサルとシカの交尾行動を観察した論文が発表されました。種が大きく離れた生物間での交尾は珍しく、科学研究として記録されたのは今回が2例目。


     研究チームはニホンザルの亜種にあたり、屋久島に生息しているヤクシマザルを観察。2頭の雌ジカにまたがり交尾しようとしていた雄ザルの事例を学術誌「Primates」で報告しました。

     シカの1頭は抵抗せず、サルは10分間にわたって交尾行動を見せていたとのこと。撮影された動画や写真では、シカのお尻のあたりで腰を動かしている様子が確認できます。なお、身体のつくりが違うためか、挿入は行なわれていません。もう1頭は回転したり走ったりしてサルを振り落とそうとし「sexual behaviour(性的な行動)」を受け入れませんでした。

     論文では異種間での交尾行動が発生した理由として、雄ザルが群れに属しておらず、雌との接触が制限されていたこと、繁殖期を迎えていたことを挙げています。また、同個体が仲間を守るときのようにシカに近付く他のサルたちを追い払う行動を見せていたことなどから、研究チームはサルとシカが調和的な関係を築いているのではないかと推測しているようです。
    イイネ! 返信
  • [197] SS教授 2017/01/13 02:25

    PFCcV81F
    親のストレスが遺伝、子孫の生命力を強化…京大研究グループ


     京都大学の研究グループは1月11日、親世代にストレスを与えることでストレス耐性の上昇や寿命の延長が子孫に受け継がれることを発見した。不明な部分が多かった「獲得形質の遺伝」現象のメカニズムについて新規の枠組みを提示するものとして、今後の発展が期待される。

     発見したのは、京都大学生命科学研究科の西田栄介教授らの研究グループ。生物学では後天的に獲得した形質は遺伝しないと考えられていたが、近年、通説を覆すような事象が報告されるようになった。そこで、研究グループは親から子へ受け継がれる生存優位性に着目。寿命や老化研究に用いられる線虫「C. elegans」を実験対象として獲得形質の継承メカニズム解明を目指した。

     研究では、親世代で成虫になるまでに低容量のストレスを与えて育てるとさまざまなストレス耐性が上昇し、その耐性上昇はストレスを与えずに育てた子の世代や孫の世代にも受け継がれていることを発見。

     さらに、オスの親だけにストレスを与えた場合でも、子の世代の線虫にストレス耐性上昇や寿命の延長という効果がみられた。このことから、ストレス耐性の上昇や寿命の延長である「ホルミシス効果」が子孫に継承することを初めて明らかにした。このメカニズムを解明することで、組織コミュニケーションを介した「エピジェネティック制御」という新規の枠組みを提示したことになる。ストレス応答性のシグナル伝達経路は、線虫以外の生物でも重要な知見となると予想される。

     今後は、環境ストレスでどのような遺伝子領域が「エピジェネティック制御」を受けるのか、ゲノム全域にわたる解析を行うことで詳細な分子メカニズムの解明を目指していく。今回の研究成果は、イギリスの学術誌「Nature Communications」に1月9日、オンライン掲載された。
    イイネ! 返信
  • [196] SS教授 2017/01/12 04:58

    PFCcV81F
    【AFP=時事】鹿児島県屋久島で、雄のサルが雌のシカと交尾を試みるという「極めて珍しい」場面を撮影したとする論文が10日、学術誌プリマーテス(Primates)に発表された。


     異種間交尾はごくまれな現象で、研究チームによると報告例は今回がわずか2件目。ただ、主に飼育されたり捕獲されたりした動物間で例外的に確認されることはあるという。

     研究チームは、1匹の若いニホンザルが、自分よりもずっと大きな雌シカ少なくとも2頭の背中に乗っている様子を撮影した。

     サルは実際の交尾はしていないものの、シカの背中の上で性的なしぐさを見せている。シカはサルのするがままにさせていることもあれば、走って逃げ出すこともあったという。

     フランスのストラスブール大学(University of Strasbourg)のマリー・プレ(Marie Pele)氏はAFPに対し、「曖昧さは一切なく、明らかに性行為だ」と指摘している。

     さらにこのサルは、まるで自分の雌ジカを「守る」ように他の雄ザルを追い払う様子も見せたという。

     研究チームはこの行動について、雌をめぐる争いが激しい群れでの「交尾相手の不足」と、繁殖期に伴うホルモン量の増加が要因となったと分析している。

     論文によると、異種間交尾についての初の科学論文は2014年のもので、南極でペンギンとの交尾を試みたオットセイの事例が報告され、大きな注目を集めた。

     屋久島のサルとシカの様子を収めた動画は、以下のサイトで公開されている。

    http://www.edge-cdn.net/video_1106810?playerskin=37016
    イイネ! 返信
  • [195] SS教授 2017/01/03 20:15

    PFCcV81F
    ストレスはやはり大敵! 胃がんの進行を加速させることも…
     誰もが、多かれ少なかれ何らかのストレスを感じながら日々を過ごしているだろうが、健康のためには、やはりストレスを最小限にした方がいい。そのことを科学的に裏付ける研究成果が出た。

     東京大学は、米国コロンビア大学などと共同で神経ストレスが胃がんの進行を加速させるメカニズムが分かったと発表した。人間の神経細胞は、脳だけではなく全身に分布していて、胃腸には1億個以上のさまざまな神経細胞が存在しているという。以前から、神経ストレスががんやさまざまな病気の原因になる可能性は指摘されていたが、その理由は分かっていなかった。研究では、胃がんが進行する過程で、がん細胞が「神経成長因子」と呼ばれるホルモンを産生し、これに反応した神経細胞ががん組織に集まり、そこからの強いストレス刺激を受けることで、胃がんの成長が加速していくことが世界で初めて明らかになった。また、この「神経成長因子」を抑える薬や、神経ストレスを放出する細胞を除去することで、胃がんの進行を抑えることもできたという。

     がん治療というと、がん細胞の増殖を直接抑える抗がん剤が最も一般的だが、今回の研究結果を受け、神経細胞との相互作用を抑える薬剤で胃がんに対する効果を高める治療が行える可能性が出てきた。

     がんはもちろん、ほかの病気にもかからないためには、なるべくストレスフリーな毎日を過ごそう〜。
    イイネ! 返信
  • [194] SS教授 2017/01/02 13:50

    PFCcV81F
    「がん難民」という言葉をご存知ですか。全国各地のがんセンターや大学病院などの高機能病院で、治療ができなくなったがん患者が、医師から見放されてしまい、行き場をなくしてしまうという問題です。

    ■がんセンターで「がん難民」が発生している? ! 

     高機能病院には、一般的な病院にはないような高度な治療機器があり、専門医がいます。一見治療が困難な患者を受け入れてくれそうなイメージがあるのにも関わらず、患者が「難民」になってしまうのはなぜなのでしょうか。その理由を理解するには、専門医の思考法を知ることが必要になります。

     現代の医師が患者を診療するとき、その思考法にもっとも影響を与えているのは、言うまでもなく「科学」です。言い換えれば、医師は科学者として教育され、働いているのです。

     科学者としての医師に期待されるのは、@論理的である(理屈が通る)、A実証的である(科学的手法により確率・統計的に証明できる)、B普遍的である(世界のどこでも、誰にでも当てはまる)、C客観的である(冷静である)ことです。そして、そのような医師を育てる医学教育が行われます。このことによって、ある一定以上の医療水準を維持することにつながっている面もあります。客観的である(冷静である)ことであり、そのように医学教育がなされます。これによって、ある一定の医療水準を維持することにもつながっている面もあります。

     こうした科学を主とする現代医療は、「医学モデル」と呼ばれます。医学モデルでは、病気には(1つの)原因があり、その原因の結果として病気が生じていると考えます。そして、病気の原因を見つけ出して、それを取り除くことが医療の目標となります。感染症であれば、細菌やウイルスを薬により除去すること、がんであればがんの組織を手術で切り取ったり、放射線でたたいたり、薬でつぶすといった具合です。そして、このモデルにおいて医療を行う主体は、専門家である医療者となります。
    医療の「専門分化」の弊害

     こうした科学的な医学においては、専門分化が進んできました。医学の進歩とともに、知識と技術の範囲が広くなり、奥が深くなってきたための当然のことです。医学全般を1人の医師で全てをカバーすることなど、とてもできません。専門医として、専門分野を決めてカバーする範囲を狭くすることで、その専門分野における知識と技術に精通することができるのです。

    ■専門医は専門分野に対して責任を持つ

     専門医は、自分が専門分野とする病気に対して責任感を持ちますが、専門でない分野の病気に対しては、自分には関係ないし、責任もないと考えがちになります。そして、専門分野の病気であっても科学的に治療効果などのエビデンス(科学的証拠)が積み上げられた問題の範囲内で、医療をしようとします。治療法が確立していない病気や治療が望めない進行度になると、どうしても興味を失いがちになります。

     例えば、私が過去に経験したこんなケースがあります。ある日救急外来に来た患者さんは、主に心不全の症状が見て取れました。そこで、私は循環器内科の医師に、この患者さんを診てくれないかと依頼しました。しかし、その医師は、一般内科で診てもらえばよいと、その依頼を断りました。彼の発想はこうです。心臓カテーテルなどによる治療が必要な心筋梗塞や狭心症であれば、その専門である自分の出番だけれども、そうでないならば自分が診なくても良い、という考え方をするのです。

     話だけ聞くと、ずいぶん了見の狭い医師のように見えますが、これは専門医にとってけっして珍しい考え方ではありません。患者が専門医を受診すると、専門医はまず、自分の専門分野の対象となる患者かどうかを判断するものです。そして、対象から外れてしまうと、関心を失ってしまいます。専門外のことはよく解らないから、なるべく関わりたくないと逃げ腰になるのです。

     自分の専門の範囲内の患者であることが解れば、次に、命に関わる病気かどうかを判断します。そして、命に関わらないものであれば、まあ放置しておいて良いのではないかと考えがちです。専門医は、原因を明らかにして対処する「原因療法」を第一と考えますから、症状を抑えておくだけの治療は「対症療法」として軽視しがちになります。

     したがって、血液検査や画像検査で異常が見つからなければ、とりあえずは命に関わる病気ではないと判断し、「検査をしたけれども、どこも悪いところは見つからない」と答えてしまいます。

     また、専門の範囲内ではあっても、自分が治せない、あるいは治せなくなった患者とは関わりたくないという気持ちが働いても不思議ではありません。医師にとって、治せないことは「敗北」となるからです。
    医師にとって「治せない」ことは敗北だ

     医師という職業は、自分が提供した医療によって治すことのできる患者が相手であれば、治療が成功したあかつきには喜ばれ、感謝されます。しかも、医師不足の状態が続いていますから、治療の可能な患者がいつも沢山待っている状態にあります。そんな状況の下で診療をしていると、治せない、あるいは治せなくなった患者とは関わりたくないという気持ちがはたらいても不思議とは言えません。

     冒頭で紹介したように、現在全国各地のがんセンターや大学病院などでは、治療ができなくなって患者が医師から見放されてしまうという「がん難民」の発生が問題になっています。これは、上に述べてきたように治すことのできない患者が医師の「自己効力感」を打ちのめすことを避けようとする、医師側の心理の問題でもあるのです。

    ■治せる患者を優先して診療、という使命感の裏返し

     ただ、これは単に医師が敗北を嫌うだけではなく、治せる患者を優先して診療しなくてはならないという使命感の裏返しでもあります。重装備の医療機器を備えた急性期病院であるほどそう考えるでしょう。また、重装備の病院では、重装備を必要とする医療を行わなければ無駄が出てしまう、という医療経済や保険診療上の問題もあるのです。つまり、「がん難民」の発生はある程度仕方がない面があるのです。

     では、それを避けるためにはどうすれば良いのでしょうか。高機能病院がその規模を大きくして、治療ができない進行したがんや難病の診療を行う部門をつくることは解決法の1つです。しかし、それはおそらく医療経済的にも実現は難しいと思います。また、進行したがんの患者が、家族のいる自宅から離れた場所で医療を継続して受けなければならないという問題も生じます。私は、その様な方向に医療が進んでいくことは理想ではないと考えています。

     それに代わる解決法は、患者ががんセンターや大学病院などの医師に頼りすぎず、「かかりつけ医」をほかに持つことです。高機能病院はあくまで、その機能を患者が利用するだけの場所であると割り切ってしまい、自分が心から頼りにできる主治医は別に持つのです。そうすれば、高機能の病院での医療の対象とならないような病状になっても、その後の医療について相談できることができます。
    よい主治医を持つこと

     つまり、高機能病院から離れることになっても、自分は「がん難民」とは感じないような仕組み作りをすることが必要なのです。高度な専門医は、その機能を利用するだけだ、と患者側が見限ることが1つの解決法です。

     さて、ここまで専門医に頼りすぎないようにということで話は進めてきましたが、もちろん専門医の中にも素晴らしい医師が沢山いることは事実です。治療の難しい病気であればなおさら、専門医の中からよい人を見つけることが一番大切になります。

     『治るという前提でがんになった』(幻冬舎)の著者、高山知朗さんは、40歳代前半に悪性脳腫瘍と白血病という2つのがんを発症しましたが、IT関連会社を立ち上げたその経験と能力、そして人脈をフルに活用して、両者を克服してこられました。患者学を自然に身につけているお手本となる方です。

     高山さんは、治療法に関する情報の収集を行い、どの病院が良いかを的確に判断し、良い主治医に巡り会っています。脳腫瘍を治療した脳外科医も、白血病を治療した血液内科医も、専門医でありながら高圧的な態度をとることはなく、患者の自律性を重んじ、患者の気持ちをとても大切にしておられるようです。

     両方のがんが治ったからこそ、「がん難民」にならなかったと言うこともできますが、おそらく高山さんなら高度機能病院での治療法がなくなったときでも、その病院にしがみつくことなく、別の道を探されるのではないかと思います。

     専門医の悪口(本当は悪口を書こうとしているのではありませんが、悪口のように聞こえる人もいるでしょう)をさんざん書いていながら、専門医にもこんなに人間的な医療を提供する医師がいることを知ることで、ホッと胸をなでおろす気持ちになりました。

    ■患者が医者を見限ることも大切

     加えて、わたしが研修医だった30年以上前にはごく当たり前な存在だった患者に高圧的な医師は、今では少数派になっています。時代とともに医師の側も変化してきています。

     そのような変化の時期だからこそ、自分に合った医師を主治医として選択することが、よい医療を受ける上で決定的に大事となるのです。

     医療者に変化を促すのも患者の力です。高圧的な医師は見限ってあげれば次第に絶滅機種となっていくのですから。
    イイネ! 返信
  • [193] SS教授 2016/12/31 00:43

    PFCcV81F
     主たる自覚症状なし。発見された時にはほとんどが末期のステージIVで、5年生存率はわずか1〜2%。すい臓がんが、この難病の中でも最も怖ろしい「がんの王様」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。しかし、そのすい臓がんの治療現場の光景も近年、劇的に変化しているという。

     ***

     すい臓の膵頭部と十二指腸、胃・胆管・主膵管の一部、胆嚢をまとめて取り除く。そして小腸を下から引っ張り、残った胃、胆管、主膵管と接合させる。膵頭十二指腸切除術は複雑で、すい臓がん手術の中でも特に難しい。腫瘍が門脈に浸潤している場合はさらに困難になり、手術時間は6〜8時間に及ぶ。一般の総合病院では年間10〜20例行っていれば評価されるこの難手術を、100例近くもこなしている医療機関がある。静岡県立静岡がんセンターだ。ここですい臓がん治療を主導する名医を、業界の人間はこう呼ぶ。

    「神の手」──。副院長兼肝・胆・膵外科部長の上坂克彦氏である。

    「神の手なんて存在しません。もちろん信念と技術は必要ですが、私にしかできない手術などありませんよ」

     当の上坂医師はこう謙遜するが、彼らがこの分野で画期的な成果を挙げているのは紛れもない事実だ。上坂医師のチームがまず着目したのは、2007年、ドイツで発表されたある臨床試験の結果だった。すい臓がん手術を行った患者に抗がん剤「ゲムシタビン」を投与したところ、手術だけの患者の5年生存率が10・4%だったのに対し、20・7%と倍の延命効果があったのだ。

    「『手術後の抗がん剤投与』が生存率を上げることを証明する初のエビデンスでした。そこで私達は07年からゲムシタビンと抗がん剤『S-1』を比較する臨床試験を行った。全国33カ所の医療機関で385例の患者さんを対象に実施しました」(同)

     その結果は世界中が驚愕するものだったという。

    「ゲムシタビンの5年生存率は24・4%でしたが、S-1を投与したグループは44・1%という驚異的な5年生存率を記録したのです」(同)

     この結果を紹介した論文が、今年、世界的権威のある医学雑誌「ランセット」に掲載された。

    「なぜゲムシタビンよりS-1の方が効果があったのか。すい臓がんが術後に再発するのは、肝臓への転移である場合が多い。その点、S-1はこの肝臓への転移を強力に抑えているようなのです。今後の目標は、『手術後の抗がん剤投与』治療の5年生存率をさらに50%まで上げることです。手術ができれば、2人に1人が助かる時代になるわけで、10年前までなら考えられない進歩です」(同)

     希望の光が見えてきた。もっとも最初から手術不能の患者はどうすれば良いのか。なにしろすい臓がんの場合、発見時に手術が可能なのは30〜40%に過ぎない。そうした患者の臨床研究に積極的に取り組む医師がいる。名古屋大学病院消化器外科の藤井努准教授だ。

    「以前は『切るかどうか』しかなかったすい臓がん治療ですが、近年は手術・抗がん剤・放射線を上手に組み合わせ、戦略を立てる『集学的治療』の重要性が認知され始めました。目標は、切除できないと診断された患者さんに対し、集学的治療で手術までもっていくこと。当院では10年から16年にかけ、門脈や動脈への浸潤があり、手術不可能なすい臓がん患者87例に対し、8カ月かけ、S-1よりさらに強力な効果がある抗がん剤『フォルフィリノックス』もしくは『ナブパクリタキセル』の投与と、放射線治療(1カ月半)を行って、手術を目指す臨床研究を実施しました」
    ■3000ボルトの高圧電流

    新兵器「ナノナイフ」
     結果はどうなったか。

    「手術ができるようになったのは71%。しかも2年生存率はそれまでの7%から66%と飛躍的に伸びました。まだ時期的に5年生存率は出せませんが、現在、5年を経過して生きてらっしゃる方もいます。従来は手術ができなければ、皆、2〜3年以内に亡くなってしまうのが常識だったので、大きな進歩です。病院で“手術は無理だ”と言われても、諦めず、セカンドオピニオンを聞いてほしい」(同)

     しかもすい臓がん治療の世界では、さらなる新兵器も控えている。その医療機器の名はナノナイフ。米国では認可されているが、日本ではまだ承認されていないため、臨床研究として実施されている。目下、この医療機器を国内で唯一、駆使し、治療を行っているのが、山王病院がん局所療法センター長の森安史典医師である。

    「超音波の画像ですい臓がんの場所をチェックしながら、長さ15センチ、直径1・1ミリの針を2〜6本、体の表面から入れ、腫瘍を取り囲むように刺していきます。そして針と針の間に3000ボルトの高電圧のパルス電流を流し、がん細胞に100万分の1ミリの小さな穴を開け、死滅させるのです」

     4本の針を使えば、わずか15分間ほどで直径3センチ程度の球状の範囲のがんを死滅させられるという。

    「ナノナイフ治療のメリットは、ラジオ波焼灼などと違い、細胞のみを死滅させ、血管や神経などの間質を傷つけないこと。私達は主に切除不能局所進行すい臓がんに対してナノナイフ治療を行っていますが、これにより門脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈などの太い血管の構造を残したまま、それらに浸潤している腫瘍細胞だけを死滅させられる効果がある。本来なら手術で取れないがん細胞を的確に死滅させ、腫瘍と血管とを切り離し、手術可能な状態にもっていく。あるいは手術できなくても腫瘍をうんと小さくして、症状を取り、長期間の生存を得るのが目的です」(同)

     この治療で先行する米国では、2015年、ルイビル大学が手術不可能な局所進行すい臓がんにナノナイフ治療を行ったデータを発表した。結果は200例のうち50例が、上腸間膜動脈に浸潤していたがんを剥がすことに成功し、手術可能になった。また、手術できなかった症例も抗がん剤だけの治療に比べ2倍の生存期間が得られたという。

     森安医師は、昨年からこのナノナイフの臨床研究を始め、今年8月の時点までで32例に実施している。

    「8月時点で最も経過が長い患者さんがまだ術後15カ月ですから、統計を公表できる段階にはありません。でも、その方はがんの影が消え、外来で抗がん剤の治療を受けながら、元気に普通の生活を送られています」(同)

     このナノナイフも集学的治療の一つに組み込んでいけば、5年生存率はさらに伸びるはずだ。「がんの王様」の制圧にまた一歩近づくことになるに違いない。
    イイネ! 返信
  • [192] SS教授 2016/12/28 03:03

    PFCcV81F
    犬も人間と同じようにストレスが重なると若白髪が増えるらしい――。動物学者で自閉症の啓発活動でも有名なテンプル・グランディン氏らの研究チームが、動物行動学会誌の今月号にそんな研究結果を発表した。

    発端は数年前、コロラド州デンバーで犬の訓練施設を運営するカミーユ・キング氏が、感情の起伏が激しい犬ほど若いうちから白い被毛が多い現象に気付いたことだった。この話を聞いたコロラド州立大学教授のグランディン氏の勧めで研究が始まった。

    グランディン氏がキング氏の話を聞いて真っ先に思い浮かべたのは、米国の歴代大統領に若白髪が多い現象だったという。

    研究チームはノーザンイリノイ大学で4歳以下の犬400匹(白い犬を除く)を対象に「若白髪」の状況を調査した。普通は4歳以下の犬に若白髪は見られないという。

    調査対象の犬はそれぞれ2枚の写真を撮り、飼い主には調査の目的を告げないまま普段の行動について21項目のアンケートに答えてもらって犬の不安感や衝動性の強さを調べた。人間の場合、そうした感情の不安定な状態とストレスとの関連が指摘されている。

    アンケートの分析では、1人で留守番させるとクンクン鳴いたり吠えたりする行動や、大勢の人がいると身をすくめる行動は不安感の表れと判断し、人に出会うと飛び付く行動や、散歩の際にリードを過度に引っ張る行動は衝動の強さの表れと判断。この結果を写真と照合して、鼻の周りの白髪の多さとの関係を調べた。

    グランディン氏は鼻の周りの白髪の多さを4段階に分け、全く白髪がない「0」から、全体が白髪になっている「3」に分類。不安感や衝動性が強いと判定された犬は、白髪の多いグループに分類される確率が40〜65%高くなることが分かった。

    犬のストレスと若白髪の関係について当初は懐疑的だったというノーザンイリノイ大学のトーマス・スミス教授は、「データを分析すると驚くような結果が出た」と話している。

    グランディン氏によると、ストレスと若白髪との関係は人と犬以外の哺乳類では確認できていないといい、さらに研究を進める必要があるとしている。
    イイネ! 返信
  • [191] SS教授 2016/12/22 01:40

    PFCcV81F
    シンギュラティーについて


    「私たちが生きている間には起こらない」という表現があります。不治の病の治療や恒星間旅行、寿命の延長など、人類の最も野心的な希望や夢に関する議論では、しばしばこの表現が用いられます。しかし最近、一部の科学者は、かつてないペースで技術が進歩することで、近い将来、人工知能が自律的に進化を遂げるようになる「シンギュラリティ(Singularity)」に到達する可能性があると述べています。

    そうした科学者の1人である神戸大学の松田卓也名誉教授は、シンギュラリティは近い将来に起こるだけでなく、止めることはできないという考えを示しました。さらに、十分な資金があれば日本は認知強化装置を使って欧米諸国よりも早くシンギュラリティに達する可能性すらあるとしています。先月の講義では、シンギュラリティ後の人類の日常生活について古代文明を引き合いに出して説明しました。古代ギリシャやローマでは、豊富な奴隷労働力によって1万人の市民が研究、スポーツ、娯楽などに自由に時間を使うことができました。ロボットがあらゆる労働を行う未来社会でも同じことが起こり、雇用制度や生計を立てるという概念をも脅かす可能性があるというのです。

    人工知能が人類の新時代を拓くと考えているのは、松田名誉教授だけではありません。一方で、警鐘を鳴らす影響力のある声も存在します。 スティーヴン・ホーキング氏とイーロン・マスク氏は、技術の進歩は現在地球のためになっているものの、制御不可能な人工知能がもたらす脅威は人類の歴史上で最大のものになり得ると述べています。最近のジャパンタイムズの記事では、商業のない社会という理想郷の恩恵を受ける前に、人間の仕事を容易にこなせる知性を持った機械が増加することで大量の失業者が生まれ、軋轢が拡がる可能性があると警告しています。このシナリオは、工場において生産工程の自動化が作業員の職を奪うという状況を拡大したようなものと言えるでしょう。

    一方、進歩のペースが鈍化していることを指摘する懐疑的な声もあります。ムーアの法則はコンピューターの性能が2年ごとに倍増するとしていますが、この説はトランジスタの小型化の限界による脅威にさらされています。最近Natureに掲載された論文でも、人類は最新の技術で現在達成できる寿命の限界に達しようとしているとされています。しかし、技術の進歩が壁に突き当たっていると思われる分野もある一方で、人工知能と神経科学の分野では著しい進歩が見られています。今年だけでも囲碁と将棋における人間の王者がコンピューターに敗北を喫しました。先月には、Frontiers in Neuroscienceに、複雑な脳活動を文字に変換することができるとする総説が掲載されました。これは、閉じ込め症候群の患者にとって希望を与える進歩であるだけでなく、人工知能の発展においても欠かせない前進です。

    人工知能の進化へ向けて、各政府も目標を定めています。EUのヒューマン・ブレイン・プロジェクトは、2023年までにコンピューターを使用して人間の脳の働きを模倣することを目指し、経費は1600億円以上に上ると予想されています。人間の複雑な脳機能の解明を目指すもう1つのプロジェクトであるアメリカのBRAINイニシアティブは、2年間で多数の神経科学のブレイクスルーを達成したため、10月に投資額を1億5000万ドルに倍増しました。これらのイニシアティブやその他の最近の進展が脳活動の正確な追跡を可能にする中、今後20年間で人工の人間の脳を作り出すという展望が現実味を帯びてきました。この場合、コンピューターが自分自身を設計し始めるシンギュラリティは2045年までに起こると予想されます。

    松田名誉教授らの主張が正しく、新たに出現する人工知能が人類の助けになるのなら、私たちが生きている間に起こる新たな発見についてこれ以上懸念する必要はないのかもしれません。それどころか、いつまで生きていられるのかについてさえ、もう心配しなくてもよくなるのかもしれません。
    イイネ! 返信
  • [190] SS教授 2016/12/19 00:22

    PFCcV81F
    教科書で習う“世界四大文明”と言えばメソポタミア文明にエジプト文明、インダス文明に黄河文明。メソポタミア文明の成立は紀元前35世紀頃、エジプト文明は紀元前31世紀頃とも言われる――充分、気が遠くなるほど壮大な過去だが、遡ることさらに2000年、紀元前54世紀の遺構がエジプトで発見された。

    「エジプト考古省がフェイスブックで発表したのですが、聖地アビドスで、紀元前5316年の“古代都市”が発見されたというのです。エジプト人だけで組織された発掘チームが家の一部や土器、石器に加え、15の墓を見つけたと胸を張っています。墓のうちのいくつかはアビドスにある王室の墓より大きいそうで、ファラオの可能性は低いようですが、エジプト考古省は“埋められた人がいかに身分が高かったかを証明している”とコメントしています」(大手紙記者)

     アビドスはカイロからナイル川を遡ること500キロ、古代から信仰を集めたオシリス神の墓があることで知られる。神なのになぜ墓があるかと言えば、オシリスは元々大地と農耕の神。人々を飢餓から救い、敬われていたのを弟神セトに妬まれ、殺されてしまうのだ。その後、妹であり妻でもあるイシス女神の手でミイラとなり復活、冥府の王として君臨することになるから墓は空なのだが。

    「そのオシリスの墓に寄り添うように建つのがエジプトで最も美しい古代建築のひとつ、セティ1世の葬祭殿。今回の“古代都市”遺構は、そこからわずか400メートルしか離れておらず、アビドスがなぜ古代の聖地となったかを、解き明かす鍵になるかもしれないと注目を集めているのです」(同)
    ■文明の黎明を告げる地か

     エジプト学と言えばこの人、早稲田大学名誉教授の吉村作治氏も言う。

    「たいへん意味ある発見だと思いますよ。埋葬されていたのがファラオでないのは当たり前。当時まだ、ファラオと呼べるような“国を統べる王”は登場していないのです。7000年前のエジプトは、狩猟採集生活から農耕生活に移行しつつあるまさにその時期。町が都市になり、小国家(ノモス)になり、国になるという過程で言えば、まだ“町”の段階なのでしょうが、エジプト最古と言ってよい農耕生活の痕跡が発見されたことの意義は非常に大きい」

     ミトコンドリアDNAなどの解析により人類の歴史を追う、国立科学博物館の人類研究部長、篠田謙一氏も言う。

    「今から7000年前というのがピンポイントです。農耕がこの地に伝播してから、国家形成に到る時期の状況についてはほとんど分かっていませんでした。一般に農業の始まりは階級社会を出現させ、文明の黎明を告げます。まさにその時期の遺構は貴重でしょう」

     こうした場合の年代は炭素14という放射性同位元素の比率を計り、測定することが多い。使用される有機物は“炉跡”と呼ばれる焚き火跡などで見つかる炭だ。火もまた、人類の活動の証に他ならない。

     篠田氏は言う。

    「今からおよそ20万年前に、アフリカで誕生したとされる現生人類は、6万年ほど前にアフリカを出ると全世界に広がり、1万6000年ほど前には南米の南端まで到達しています。その後、定住生活に移行し、メソポタミアでは9000年ほど前には農耕が始まったと考えられています。アビドスはエジプトにとってはアフリカとアジアのクロスロード。メソポタミアから農耕が伝わり、アビドスからエジプト文明が始まったと考えると興味深いですね」

     文明の誕生まで遡る、なんとも壮大な話なのだ。
    イイネ! 返信
  • [189] SS教授 2016/12/12 04:25

    PFCcV81F
     寝不足で甘い食べ物が欲しくなるのは、脳の「前頭前皮質」と呼ばれる部分の働きによることが、マウスの実験で分かった。筑波大のミハエル・ラザルス准教授らが10日までに英科学誌イーライフに発表した。睡眠不足から肥満、生活習慣病に至る仕組みを解明し、健康的な食生活を促進するのに役立つと期待される。

     睡眠には寝入りばななどの深いノンレム睡眠と、体は休んでいても脳が活動しているレム睡眠がある。これまでの研究で、レム睡眠が不足すると、食べ過ぎて太りやすくなる傾向があることが知られていた。

     マウスのレム睡眠を妨げる実験を行ったところ、砂糖の主成分であるショ糖や脂質の摂取量が増加した。脳の前頭前皮質の活動を遺伝子操作などで抑制すると、脂質の摂取量は増えたが、ショ糖は増えず、糖分に対する欲求を担っていることが判明した。 
    イイネ! 返信
  • [188] SS教授 2016/12/05 04:43

    PFCcV81F
    「ゲノム編集」という新技術を使って不妊にした外来魚・ブルーギルを琵琶湖などに放流し、仲間を根絶させるプロジェクトを、水産研究・教育機構や三重大のグループが進めている。外来魚を駆除する新しい試みで、3年後をめどに人工池で実験を始める計画だ。

     ブルーギルは北米原産。1960年代から国内各地に広がった。琵琶湖にはブラックバスと合わせて1240トン(2015年)いると推定され、小魚などを食べるため在来生物への悪影響が懸念されている。網での捕獲や電気ショックで駆除が続いており、滋賀県と国が年約1億円の対策費を負担している。ただ近年は天候などの影響で駆除量が減り、県のまとめでは、14年から生息量は増加に転じている。

     研究グループが進めているのは、卵を作るために必要な遺伝子をゲノム編集によって壊し、メスが不妊化する遺伝子変異を持つオスを大量に繰り返し放流する方法。このオスと野生のメスが交配して生まれたメスは卵を産めず、最後の1匹まで駆除できると期待されている。

     米国の湖のデータを元にした試算では、当初の生息数の10%弱を毎年放流、捕獲と組み合わせれば、琵琶湖などでも数十年で根絶できる可能性があるという。
    イイネ! 返信
  • [187] SS教授 2016/12/03 02:34

    PFCcV81F
     花粉症を含めたアレルギーは、もともと体に侵入した細菌やウィルスなどから体を守る免疫システムが過剰に反応しておこる。

     花粉症も大変だが、生物が生きていくには欠かせないシステムである。この免疫に関わるいくつかの遺伝子はネアンデルタール人とデニソワ人からの「プレゼント」だったと今年の1月に明らかになった。

     遺伝学の科学誌「The American Journal of Human Genetics」で独の研究チームが発表した。日本人の遺伝子の中にネアンデルタール人が「潜んで」いる。

    ヒトはネアンデルタール人を滅ばして今の繁栄を築いた。独・マックスプランク研究所のJanet Kelsoのチームは現代人の遺伝子の中に、ネンデルタール人やデニソワ人との交配によって残り続けている「彼ら」の遺伝子をさがしていた。

     人類の進化でエポックメイキングな最近の発見といえば、ヒトが絶滅させたと考えられているネアンデルタール人と人間が交配していたことと第3の人類デニソワ人の発見だ。

     この3種は50万年前に共通祖先から分かれたと考えられ、ネアンデルタール人はヒトより数十万年前にアフリカを出て主にヨーロッパに広がった。

     研究チームが目をつけたのがTLRの遺伝子。これまでの研究データもとにピックアップした。TLR(Toll Like Receptor)は細胞の表面にニョキニョキと生えているタンパク質。免疫で非常に重要な役割を果たす。

     体を外敵から守るには、まず外敵の侵入を関知しなくてはならない。この防犯センサーの役割を担うのがTLRというタンパク質なのだ。

     体内に侵入した細菌や菌類、寄生虫の一部がこのTLRにくっつくとセンサーが作動し、外敵をやっつける細胞が集まったりと、さまざまな免疫システムが動く仕組みだ。


    ネアンデルタール人の遺伝子を最も多く持つ日本人


     複数あるTLRのうちTLR1とTLR6、TLR10は染色体上に隣接している。ネンデルタール人やデニソワ人の3つのTLRを含む領域を現代人と比較する。

     ヨーロッパ人と東アジア人、アフリカ人など現代人の14集団のこの領域を調べると7つのタイプに分類された。このうち2つがネンデルタール人由来、ひとつがデニソワ人由来だと判明する。

     理論的にはヒトより数十万年先にアフリカを出て、中東を経由してヨーロッパに広がったネアンデルタール人の遺伝子は、アフリカに残った祖先由来のアフリカ人には存在しない。

     調べると、確かにアフリカ人にはネンデルタール人由来のTLRを含む領域がほとんどみられなかった。

     このように、現代人のTLRを含む領域のゲノム配列を詳細に調べ比較してネンデルタール人とデニソワ人由来だと突き止めた。

     そして、機能が非常に重要性なので、数万年という自然選択を受けてもほとんど変わらずに高頻度で残っていたと考えた。

     実はこのネアンデルタール人由来のTLR1とTLR6、TLR10遺伝子を最も多く持つのが日本人。どの集団よりも高く、約51%が持っていた。

     花粉症の最大の要因にTLR1とTLR6、TLR10が直接関与するわけではないが、免疫システムを通して人類の壮大な進化を想像し、内なるネアンデルタール人を思うことで少しは症状が軽くなるかもしれない(そんなことはありません)。
    イイネ! 返信
  • [186] SS教授 2016/11/30 16:01

    PFCcV81F
    熟睡によって、嫌な記憶が脳内で強化される可能性があるとの研究結果が29日、発表された。怒ったまま寝ることを戒める古い格言に、科学的な信ぴょう性を与える結果となっている。
     中国と米国の研究チームが英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表した研究論文によると、形成されたばかりの悪い記憶を保持したまま眠りに就くと、それが脳に深く刻み込まれ、後にその記憶を拭い去るのがより困難になるという。
     中国・北京師範大学(Beijing Normal University)で今回の研究を実施した論文の共著者、柳ホ哲(Yunzhe Liu)氏は、AFPの取材に「昔から『怒ったまま寝るな』と言われているが、この忠告が一定、理にかなっていることを今回の研究は示唆している。床に就く前にまず、けんかの解決を勧めたい」と語る。
     柳氏らは睡眠が記憶に及ぼす影響を調べるために、男子学生73人を被験者として採用。2日間にわたり、特定の画像に好ましくない記憶を関連付ける訓練を行った。
     その後、被験者にその画像を再び見せ、好ましくない連想をよみがえらせるか、またはそれに逆らって記憶を呼び起こさないようにするか、どちらか一方の指示を出した。
     実験は2回行われ、1回は記憶の関連付けの訓練後30分後に、もう1回は被験者が一晩眠った後にそれぞれ実施した。実験中はずっと被験者の脳活動をスキャンして記録した。
     その結果、被験者らは、睡眠後に記憶を抑圧する方がはるかに難しいと感じることが分かった。また脳スキャンでは、好ましくない記憶が長期記憶に関連する脳の部位に保存されている可能性が高いことが判明した。
    ■記憶のコントロールで精神医学に応用も

     睡眠は、新たに獲得された情報が脳内で保存、処理され、短期記憶から長期記憶のネットワークへと移動する仕組みに影響を及ぼすことが知られている。
     研究チームによると、好ましくない、トラウマ(心的外傷)となるような出来事の記憶は、好ましい記憶や、どちらでもない経験の記憶よりも長期間残る場合が多いという。だがこれらの記憶はある程度、意識的に制御することが可能だ。
     悪い記憶を抑圧できないことは、抑うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)など多くの精神医学上の問題と関連している。
     今回の最新研究が行われるまで「記憶の抑圧は睡眠の前後どちらがしやすいのか、あるいはしにくいのか、分かっていなかった」と柳氏は指摘した。
     このようなプロセスに関する理解を深めることで、PTSDなどの疾患に対する治療の向上につながる可能性がある。「例えば、トラウマ的な経験をした直後の睡眠剥奪により、トラウマとなる記憶の強化を防ぎ、その形成を阻止する機会を提供できる可能性がある」と、論文の執筆者らは記している。
    イイネ! 返信
  • [185] SS教授 2016/11/22 04:15

    PFCcV81F
    スウェーデン・ルンド大学の研究チームによって、スウェーデン南東のバルト海沿岸に沈む中石器時代の居住地跡が発見された。


    発見された遺跡は非常に保存状態がよく、エルクの角でつくられた9000年前のものとみられる碑文入りのつるはしなどの生活用品が見つかった。碑文の意味は今後解明していくとのことだ。また、魚をまとめて捕獲するのに使う、ハシバミの棒を編んでつくった漁業用のトラップも発見されている。当時入り江で暮らしていた人々が半定住生活をしていたことがうかがえる。

    今回の遺跡の発見は、考古学のみならず地質学においても重要だ。その集落に人々が暮らしていたころは最後の氷河期のあとで、現在よりも海面が低かった。その後、海面の水位が上がることで水没したとみられている。

    ルンド大学の博士課程で第四紀の地質学を研究するアントン・ハンソンは、『Sci-News』において、次のようにコメントしている。

    「当時は完新世のなかでも温暖な時期だったようです。少なくとも夏の間は暖かく、食べ物も豊富で人々にとって過ごしやすい環境だったと思います。地質学者としては、当時のその場所がどのような景観だったかを再現してみたいですね。そこは暖かかったのか寒かったのか、そしてその後どのように気候が変動したのか」とコメントしている。

    研究チームは詳細な年代を特定するために、花粉と珪藻の調査と並行し、放射性炭素による年代測定と海底の掘削調査を進めている。また、海底の深度がどのように変化したかを明らかにするために、海底地形図を制作した。「これまでは断片的な情報をもとにつくっていた地図ですが、今後は過去の様子を包括的に見るものにできるはずです」とハンソンは述べている。

    アフリカが起源だとされる人類は10万年以上に渡って移住をし続け、地球上の各地域に居住地を広げてきた。だが、どのように移動をして生活をしてきたかについては、いまだ多くのミッシングリンクがある。その解明には、古代の人類の足跡を発見し、ピース一つずつ埋めていくしかない。今回の発見もまた、11700〜8000年前のバルト海沿岸の自然環境とそこに暮らす人々の文化に対し、その両面からの研究を飛躍的に進める大きな手がかりとなるだろう。
    イイネ! 返信
  • [184] SS教授 2016/11/04 23:17

    PFCcV81F
    (CNN) 頭の中で何度も何度も鳴り続けて止まらないあの音楽。曲名が目に入っただけでまた同じ繰り返しが始まる――。そんな現象が起きる理由について解説した論文が、3日の米心理学会誌に掲載された。

    特定の楽曲が耳にこびりついて離れない現象は、推定90%が週に1回以上の頻度で経験する。英ダラム大学の音楽心理学者ケリー・ジャクボウスキ氏の研究チームはその主な理由として、テンポ、旋律の形態、独特の音程の3つの要因があることを突き止めた。

    ジャクボウスキ氏によると、条件となるのは「単純すぎず、複雑すぎない」楽曲であること。まずはリズムに合わせて体を動かしてしまうような、テンポの速さと軽快さが求められる。

    2つ目として、頭から離れない音楽は旋律の構造は単純でもリズミカルなパターンを持っていて、音程の上下が繰り返される。童謡の多くは子どもたちに覚えてもらいやすいよう、このパターンで作曲されているという。

    3つ目の条件は、全体的には単純で均一なパターンを保ちながら、不意に独特の音程が入ること、「つまり単純ながら変わっている」(ジャクボウスキ氏)楽曲だという。

    研究チームは2010〜13年にかけて主に英国の3000人を対象に調査を行い、耳にこびりつきやすい音楽を挙げてもらった。その結果、レディ・ガガの「バッド・ロマンス」を筆頭として、圧倒的にガガの楽曲が多かった。

    「私も頭の中でバッド・ロマンスが流れ続けている」というジャクボウスキ氏は、曲名を見るたびに頭の中でこの曲がかかってしまうとこぼしている。
    イイネ! 返信
  • [183] SS教授 2016/11/01 02:30

    PFCcV81F
    アナタが朝型か夜型はもう遺伝子で決まってる?
    あなたは朝型? 夜型?

    DNA解析サービスの会社23andmeが約9万人を対象にDNA調査をおこなったところ、朝型か夜型かというのは遺伝子で決まっているという結果が出たそうです。またその調査によると、夜型の人はうつ病や健康上の問題をより多く抱えるとの結果も。でも、この結果は必ずしも因果関係を意味するとは限らないので注意が必要だそうです。

    ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されたこの研究は、朝型人間かどうかは、ナルコレプシー(眠気の発作)、長時間のレム睡眠、長めの体内時計などにも影響する15種類の遺伝子的な形質と関連していると強調しています。朝型については、うつ病になりにくいとか、肥満度指数(BMI)が低めでより健康的であるという傾向がある一方、夜型はうつ病や肥満のリスクがより高いという傾向が出ているそうですが、研究チームはそれを立証する証拠があるわけではないと語っています。

    23andmeの研究者たちは遺伝子情報の共有に同意した89,283人のDNAを分析。被験者たちには睡眠や傾向に対するアンケートに答えてもらいました。今回の調査は、ゲノム関係では1番大きな研究調査のひとつと言われていて、民間の企業がこのような意味のある科学的な研究をおこなうことも可能だと示したいい例になったようです。この手の研究は、通常ではあまり資金を得ることができないようです。

    「この結果により、さまざまな病気などの裏にある遺伝子を見出すことができます。そして我々がお互いにどう違うのかというのを理解するのにつながるといいなと思っています」とメディアに語るのは23andmeの主任研究員David Hindsさん。

    WIREDの記事によると、23andmeは睡眠に関連した調査が得意であるため、体内時計に作用する薬を開発しているReset Pharmaceuticalsという会社と最近、契約を結んだそうです。というわけで、この製薬会社は、23andmeの持つユーザー情報に基づいて研究開発をおこなうことができるというわけですね。

    今回の研究結果では、朝型の人は年齢や性別に関わらず、肥満度指数(BMI)が低めの傾向が見られました。また、ほとんどの人(56%以上)は自分は「夜型」だと思っているようです。女性と60歳以上の人々は朝型が多かったそうです。朝型の人たちは不眠に悩む傾向が少ないことと、毎晩8時間以上の睡眠が必要な人が多くて、夜型の人たちよりもうつ病に苦しむという傾向が低いこともわかっています。

    もし父親が朝型人間だった場合、その娘は、朝型人間になる可能性が2.4倍高くなり、息子は1.9倍高くなるそうです。そしておもしろいことは、朝型人間は夜型人間と関係を持つことが多いともわかっています。早起きの人たちは不眠症が少なく、夜型の5人に2人が不眠症であるのに比べて、朝型は5人に1人だけなんだそうです。

    この研究では、私たちそれぞれの体内時計は生まれ持ったもので、トリクルダウン効果でほかの生物学的・心理的プロセスに影響を及ぼしているのではないかと示唆しています。今回の考察で、私たちの睡眠に対する理解を深め、睡眠障害に悩む人たちのために役立つようになるといいですね。そして、科学者たちがこの研究結果でうつ病と肥満についてさらに研究を進めるきっかけになるかもしれませんね。

    そして最後に、この研究結果はユーザーによる自己申告のアンケートによって出したものなので、DNAの分析だけの結果ではないんです。遺伝子のほかにも、環境や社会的要因が睡眠のサイクルに影響しているということですね。
    イイネ! 返信